GJ CARS

Mechaiic'sEye

メカニクス・アイ

MECHANIC’S EYE|011「緑に包まれた時間」

Mechanic’s Eye – Porsche 964 Carrera 4

緑に包まれた時間

葉のざわめきに埋もれるように、964カレラ4は静かに眠っていた。

かつてアスファルトを駆け抜けたその姿は、今はただ雨粒を受け止め、枝葉に寄り添っている。

この個体はまだ「手をつけていない不動車」。

エンジンは沈黙し、灯火は点らず、ただ自然と共に時間を重ねている。

機械であり、生き物でもある

不動車とはいえ、そこに宿る空気はただの鉄の塊ではない。

年月の重み、オーナーの記憶、走った道の数々が確かに染み込んでいる。

苔や水滴さえも、そのヒストリーを物語る装飾のように見える瞬間がある。

 

「まだ触れていない」という状態は、整備士にとって静かな挑発だ。

ここからどこまで蘇るのか。

眠りから目覚めさせるためには、何が必要なのか。

ただ復活させるだけではない。

964らしいフィーリングを取り戻すには、部品を交換するだけでは足りない。

“生き物”としての調律が求められる。

 

不動車の964カレラ4は、まだ何も語ってはいない。

だがその沈黙の奥には、確かに「もう一度走りたい」という声が眠っている。

緑に囲まれたこの姿は、ただの朽ちゆく時間ではなく、再生の予兆。

“安心は見えないところに宿る”

整備士の手が入るその日まで、この964は静かに息を潜めている。

Loading...