Mechanic’s Eye – Porsche 964 Carrera 4
緑に包まれた時間
葉のざわめきに埋もれるように、964カレラ4は静かに眠っていた。
かつてアスファルトを駆け抜けたその姿は、今はただ雨粒を受け止め、枝葉に寄り添っている。
この個体はまだ「手をつけていない不動車」。
エンジンは沈黙し、灯火は点らず、ただ自然と共に時間を重ねている。
機械であり、生き物でもある
不動車とはいえ、そこに宿る空気はただの鉄の塊ではない。
年月の重み、オーナーの記憶、走った道の数々が確かに染み込んでいる。
苔や水滴さえも、そのヒストリーを物語る装飾のように見える瞬間がある。
「まだ触れていない」という状態は、整備士にとって静かな挑発だ。
ここからどこまで蘇るのか。
眠りから目覚めさせるためには、何が必要なのか。
ただ復活させるだけではない。
964らしいフィーリングを取り戻すには、部品を交換するだけでは足りない。
“生き物”としての調律が求められる。
不動車の964カレラ4は、まだ何も語ってはいない。
だがその沈黙の奥には、確かに「もう一度走りたい」という声が眠っている。
緑に囲まれたこの姿は、ただの朽ちゆく時間ではなく、再生の予兆。
“安心は見えないところに宿る”
整備士の手が入るその日まで、この964は静かに息を潜めている。

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